アキタの檻

此処には阿呆な話しかない。

「自分には何も無い」と悩む人に読んでほしい本:井戸まさえ著『無戸籍の日本人』

本を読んでいると,数十冊に一冊くらいの割合で,価値観を根本的に揺るがされる本に出合う。

井戸まさえ著『無戸籍の日本人』もそんな一冊だった。

人に悩みは尽きない。
金が無い。時間が無い。能力が無い。地位が無い。友達がいない。恋人がいない...etc。
「悩み」とは,何かが欠如している状態に起因する。
大富豪の両親を持ち,自ら働く必要がなく時間を持て余しており,英才教育のおかげで能力にも恵まれ,社会的地位を保証されており,友達にも恋人にも恵まれた人間に,悩む余地など無い。そいつが悩むことがあるとすれば,他人はそれを「贅沢な悩み」あるいは「哲学」と呼ぶだろう。

悩みとは欠如である。
とすると,この世で最もヤバい「悩み」とは何だろうか,と考えた時に,
それは「戸籍が無い」ことじゃないか,と思い至った。
そこで,この日本に戸籍が無い人間など存在するのだろうか,と思いネットで調べてみた。

存在した。この日本に。

世の中には,「戸籍がない」ことで悩んでいる人が存在する。
これは本当にヤバい。
戸籍が無ければ,義務教育さえ受けられない。まともな職にもつけない。そもそも,そんな戸籍が無い,なんて状況に陥る家庭状況が,相当にヤバいことが察せられる。十分な経済状況や教育など望むべくも無い。
子供は親を選べない。無戸籍者たちは,生まれながらにして否応なく思いハンデを背負わされるのだ。何の罪も無いのに。

無戸籍の人々についてもっと知りたい。そう思い,この本『無戸籍の日本人』を手に取った。

筆者は政治家である。無戸籍者が戸籍を取得するためのサポートをされている。また,政治活動として,無戸籍者が戸籍を取得しやすくする法案改正に取り組んでいる。これらの活動の原動力には,前夫との確執から子供が一時的に無戸籍状態になった御自身の経験があるという。

本書の内容は衝撃的だった。
無戸籍の人々は皆,そのまま小説としても成立するような衝撃的な人生を送っている。もちろん喜劇とはいえない。
母親の存在さえあやふやな青年が,自らの出自を探る過程は,さながらミステリ小説のようだった。

本書を読んだ後には,「お金が無い」とか「彼女が出来ない」とか,そんな普通の悩みなど,本当にどうでもいいことだと思ってしまう。これらの普通の人間の悩みは,究極的にはその人の努力不足ともいえるからだ。無戸籍者たちの悩みは,本人の努力ではどうしようも無い。ただ,その家庭に生まれてきたことが運の尽きだった訳だ。

「自分には何も無い」と悩む人には,ぜひ本書を読んで欲しい。
自分の悩みなど,自分次第で何とかなる「贅沢な悩み」だということが分かる。

 

無戸籍の日本人

無戸籍の日本人